その4:情報とは

「情報」とは

 第1回から第3回のブログでは「IT(Information Technology)(情報技術)」をとりあげました。そこでは「IT(情報技術)」とは、コンピューターや通信など情報を扱う工学およびその社会的応用に関する技術の総称であることをご説明しました。今回のテーマはそのIT(情報技術)で扱う対象となる「情報」についてご説明したいと思います。

 「情報」って何ですか? と改めてと聞かれると、答えるのが結構難しいと思います。当たり前すぎて「情報は情報でしょ・・」なんて回答になってしまう人もいるかもしれません。しかし、これではチコちゃんに叱られちゃいますよね。

 「情報」の定義について辞書で調べてみましょう。一般的な「情報」の定義として、三省堂国語辞典 第七版では次のように定義しています。
①ものごとについて(新しいことを)知らせるもの。
②ディジタル信号として処理される内容。文字・映像・命令など。
③そこから、何かの意味が読み取れるもの。
④「情報」の処理技術について学ぶ、高等学校の教科。となっています。
いずれも正確でしかも端的に「情報」について説明していますが、理解を深めるために、それぞれについて少し補足説明をしたいと思います。

〖「情報」の定義1〗 ものごとについて(新しいことを)知らせるもの:
 これが最も一般的に使われている「情報」の定義だと思います。「情報」は何かを知れせてくれるものですが、特にそれを伝えられた人にとって、新しいことである場合に「情報」と言えるのです。つまり古いこと(すでに知っていること)を知らせても、「情報」とは呼べません。それは役に立たないからです。例えば友だちが「明日は雨らしいよ!」と知らせてくれたとします。それを聞いた人が明日の天気予報を見ておらず、明日が雨になる可能性が高いことを知らなかった場合、この友だちからの知らせは貴重な「情報」となるのです。この人は明日は傘を持って出かけることで濡れずにすむのです。ところが、この人がすでに明日の天気予報を見ていて、明日が雨だという予報をすでに知っていた場合、友だちが「明日は雨らしいよ!」と知らせてくれてもこの人にとって新しいことではないので「情報」とは言えないのです。しかし友だちは親切心で知らせてくれたのでしょうから「もう知ってるよ」なんて冷たい返事をするのではなく、「ありがとう、明日雨なんだよね。私も天気予報見た。」ぐらいのお礼はしておきましょう。
 現代はインターネットの普及などによって「情報」が溢れている「情報社会」です。しかし、その内容をよく確認してみると、本当に新しいことって意外に少なく、世界中の人が、他人をビックリさせるような新しいことに飢えています。そして新しい情報を作りだすことに時には暴走する若者などが増えて社会問題になっているのです。

〖「情報」の定義2〗 ディジタル信号として処理される内容。文字・映像・命令など:
 これはITで扱う「情報」の定義です。「情報」の一部は、コンピューターなどで「ディジタル信号(ディジタルデータ)」として処理されます。「ディジタル信号(ディジタルデータ)」とは、状態を示す量を量子化・離散化して処理した信号のことです。「ディジタル」の語源は、ラテン語の「指(digitus)」であり、数を指で数えるところから離散的な数を意味するようになりました。逆の言葉として「アナログ信号」という言葉がありますが、これは連続量で処理した信号のことです。
 私たちが使っている文字や映像などはほとんどがアナログ信号でできていますが、それらはすべてディジタル信号に置き換える(変換する)ことができ、これを「ディジタル化」と呼びます。たとえば音楽や人の声をスマートフォンに録音する場合、元の音楽や人の声は空気の振動、つまりアナログ信号で伝わってきますが、これをスマートフォンに録音した瞬間、そのアナログ信号はディジタル信号に変換されスマートフォンに保存されているのです。
 また、この定義の最後に「命令など」とあります。この「命令」とはコンピューターのプログラムのことです。プログラムはコンピューターを動かす「命令」でできており、「命令」もディジタル信号(ディジタルデータ)の「情報」としてコンピューターに保存され、利用されています。

〖「情報」の定義3〗 そこから、何かの意味が読み取れるもの:
 何の意味も読み取れないものや誰にも何の役にも立たないものは「情報」とは呼べません。たとえば昔の地上波アナログ放送時代に受信状態が悪いときなどにときどき見られた砂嵐のような画面(ホワイトノイズ)のようなものです。あの画面からは何の意味も読み取ることはできません。
 IT(情報技術)の最近のキーワードとして、「ビッグデータ」というのがあります。「ビッグデータ」とはIT(情報技術)の進歩により収集可能になった大量のデータであり、IT(情報技術)で分析し、利用するためのものです。この「ビッグデータ」の中身は膨大なデータの羅列で、一見意味が読み取れないものも多いのですが、人工知能(AI:artificial intelligence)などの最新技術を用いて多数のデータを組み合わせて意味を読み取ることにより、「情報」としての価値を創造できるようになってきました。このテクニックを持つ技術者を「データサイエンティスト」と呼び、膨大なデータの中から貴重な「情報」を見つけ出す最先端の職業の一つになっています。


データサイエンティスト協会プレスリリース(2014.12.10)より


〖「情報」の定義4〗 「情報」の処理技術について学ぶ、高等学校の教科:
 50代~60代以上の方には知らない方もおられるかもしれませんが、日本の高等学校教育において2003年度(平成15年度)以降に入学した高校生は、新教科「情報」を全員履修することが定められました。私が大学に入学した時には、専門学科が無かった「情報」という学問が、今や高校で必履修科目として教わることができるようになったのです。この授業では、全員が身に付けるべき「情報」に関する知識やIT(情報技術)の理解を目標としています。このため、今の高校生は高齢者よりもはるかに「情報」に関する正しい知識を身に付けているのです。
 なぜ「情報」という新しい教科が設定されたかと言うと、残念ながら今の日本のIT(情報技術)は欧米や中国などの世界の先頭集団から周回遅れになっている現実があるからです。「ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)」は米国・中国の巨大IT企業の独占状態になっており、人工知能(AI:artificial intelligence)、第五世代(5G)の「携帯電話通信網」などの先端技術においても日本の存在感は薄いのが現状です。得意とする製造業でもスマートフォン製造ではサムスン、アップル、華為技術(ファーウェイ)などに水を開けられています。これを打破するために、学校教育を見直してIT人材を育成しようとしているのです。
 2020年からはいよいよ小学校で「プログラミング教育」が必修化され、スタートします。このような状況を受け、最近の中高生の将来なりたい職業ランキングで「ITエンジニア・プログラマー」が上位になったという統計が発表されるなど、理系の人気が復活してきており、将来への期待が高まっています。

以上、「情報」の定義について説明をしました。
「情報」の理解が深まったところで、「情報」と人類の関わりの歴史について考えてみたいと思います。その長い歴史の中で、「情報」の内容や量、伝わりかたなどが移り変わってきました。

 私達人類は、いつごろからどのように「情報」と関わってきたのでしょうか?
 人類がこの地球に最初に誕生したのは、約600万年~700万年前とされています。そのころ「猿人」と呼ばれる初の人類が生まれました。途方もなく昔の話です。ふつう、「昔」と言うと、大多数の人は日本で言えば約2,000年前の「弥生時代」、世界で言えばソクラテスやプラトン、アリストテレスなどが活躍した約3,000年前の「古代ギリシャ時代」などを思い浮かべるのではないでしょうか。これらは高々3,000~4,000年前の話です。それに比べて約600万年~700万年前はその千倍以上も昔の話になります。しかし、地球が誕生したのはさらに古く、約45億年前と言われています。地球が誕生してから現在までを1年とすると、人類が誕生した時期はなんと12月31日の午前10時ごろになります。地球の歴史から言えば、人類の誕生というイベントはつい最近起こったものにすぎないのです。
 さて、〖「情報」の定義1〗によれば、「情報」とは「もののごとについて(新しいことを)知らせるもの」だったので、自然界から提供される事象・事実、例えば「夜が明けて朝になった」とか「雨が降ってきた」、「暑くなった」などの自然現象は人類にとっての「情報」と言えます。「夜が明けて朝になった」という事象を「情報」として受け取ることにより、1日の行動を始めようとか、狩りに行こうとか判断をすることができます。つまり、人類の脳が「情報」を処理し、判断するのです。おそらく、その頃の人類にとって、もっと重要な「情報」は自分の身を守るための事象、例えば「ゾウやマンモスが襲ってきた」などの事象だったと思われます。これらは自分の身を危険にさらす可能性のある「情報」であり、生存維持のために大切なため、特に敏感に素早く脳は処理するようになりました。こうした脳の機能は、私達現代人にも引き継がれており、何かが飛んで来たらさっと身をかわすなどのことが自然にできます。人類は、このようにして人類が誕生した約600万年~700万年も前から常に「情報」に接してきたと考えられます。
 もう少し付け加えると、人類は誕生するずっと以前から、人類の祖先(人類の祖先は「猿」だったそうです)を通して「情報」に接していました。人類の脳は、人類の祖先の脳の機能を引き継いで構成されています。したがって、人類が誕生する前に、人類の祖先が「情報」と接した影響は、その脳に刻まれ、人類に引き継がれているのです。人類と「情報」の関係は、こうして長い年月を重ねて作られてきました。そしてその「情報」をどのように処理するかは、長い時間をかけて脳に刻まれてきたのです。

 次に「情報」の内容の変化について考えてみたいと思います。
 人類が誕生した初期の頃の「情報」は、おそらく単純で量も少なかったと思われます。「猿人」は二足歩行をして、石器(道具)も使えましたが、まだ「言葉」は持っていませんでした。生活で利用していた情報は、おそらく自然界や動・植物から提供される自然現象などの事象が中心であり、それほど複雑な「情報」には接していなかったと考えられます。自分たちの種を守るために必要な本能的活動を行うために必要な「情報」のみを取り込み、ほとんど本能的に処理していたと思います。この時点では、人類が処理する「情報」は、他の哺乳類などの動物と、あまり差は無かったのかもしれません。
 しかし、人類はその後「猿人」から「原人」「旧人」、そして現代人の属する「新人(ホモ・サピエンス)」へと、次々と進化を遂げていきました。私達「新人(ホモ・サピエンス)」が誕生したのは、約20万年前と言われています。人類誕生から数百万年の月日を経て進化したのです。人類は、その数百万年の間にいろいろな発明をしました。石器も槍の形にすることで、より強力にし、大型の生物にも対応できるようにした。また、火をおこし、これを利用して料理をしたり、鉄で鋭利な刃物を作ったり、明かりを得たりして活用するようになりました。そして、ついには他人との高度なコミュニケーションを実現する「言葉」も使うようになりました。
 人類の進化の成果の一つとして、脳の容量が大きく、賢くなったことがあります。初期の「猿人」の脳の容量は、300ccほどでした。それが、180万年前ごろに現れた「原人」になると、800ccほどに急激に大きくなり、私達「新人(ホモ・サピエンス)」では1,500cc以上にもなったのです。脳の容量は、200万年前ごろから急激に大きくなりましが、その理由については諸説あります。一説には石器を使うことを覚えたために、タンパク質という上質な栄養を多く摂れるようになったからだという説があります。私が想像するには、大きくなった一つの原因は、「情報」が高度かつ大量になったことで、これに対応するため脳の能力が増強されたためではないかと考えます。「情報」の量が多くなった最も大きな原因は、人類が「言葉」を使い、他の生物には見られないような高度なコミュニケーションを行うようになったことでしょう。それまで、ほとんどが受け身の「情報」ばかりであったのが、人類が自ら情報源となり、大量の「情報」を生み出すようになったのです。「いったい、いつ頃から人類が「言葉」を使うようになったのか」については所説ありますが、少なくとも数十万年前には簡単な「言葉」を使っていたらしいのです。
 人類は、数万年前には「壁画」を残すようになり、6千年前には「文字」を発明し、ついに効率よく「情報」を記録することまでできるようになりました。それまで「情報」は一過性のものであり、蓄積することは難しかったのが、絵や文字で記録することができるようになり、長い期間にわたって、何回でも有効に活用することができるようになりました。こうして、「情報」は自然界が与えるものよりも、人類が自ら作り出す「情報(コンテンツ)」の方が主役になっていったのです。そして現代は、この人類が自ら作り出す「情報」で溢れています。企業の業績データ、法律、経済指標、紙幣、株・・・すべてが人間社会のために人類自らが作りだした「情報」です。ビッグデータで利用される「情報」も、ほとんどが人類自ら作りだした「情報」なのです。



2020年01月13日