その8:ディジタル化のメリット

ディジタル化のメリット

 

 現在、いろいろな「情報(アナログ情報)」はどんどん「ディジタル化」されています。レコードもアナログレコードや音楽カセットテープが姿を消し、CDやDVDなどのディジタルメディアに入れ替わってしまいました。地上波テレビ放送もアナログ放送からディジタル放送にあっと言う間に切り替わってしまいました。「アナログ情報」がどんどん浸食されているのです。それはなぜでしょうか。その理由は「ディジタル化」には大きなメリットがあるからです。今回は、この「ディジタル化」のメリットについてご説明したいと思います。

 

 まず、「アナログ情報」と「ディジタル情報」の2つの違いについてご説明します。

 「アナログ情報」とは、長さや時間のように、目盛りと目盛りの間に無限に値が存在するような「連続量」で表された情報です。長さを表そうとすると、無限に細かくすることができます。「アナログ情報」の場合、図1の長さの例のように、矢印の位置を正確に表そうとすると、その数値データは無限に長くなってしまいます。音も空気の連続した圧力の変動で表された情報なので長さと同じように「アナログ情報」です。

 図1:アナログ情報の例(長さ)

 
 それに対し、「ディジタル情報」とは、数値情報のように、目盛りと目盛りの間には値が存在しない「離散量」で表された情報です。整数のように“0(ゼロ)”の次は“1(いち)”、“1(いち)” の次は“2(に)”と次の値へ飛び飛びの値をとっていくものです。文字情報も“あ”、“い”、“う”・・というように飛び飛びの値をとるので、広い意味で「ディジタル情報」であると言えます。

 「ディジタル情報」の場合、図2のディジタル時計の例のように、現在表示している12時37分の次は12時38分に一気に1分間も値は飛んでしまいます。そのため、その間の12時37分何秒かは読み取れないのです。これは「離散量」の持つ一つのデメリットです。

図2:ディジタル情報の例(ディジタル時計の表示)

 「アナログ情報」と「ディジタル情報」の違いは、図3のように「連続量」で表されているか、「離散量」で表されているかの違いです。つながっているか、離れているか、たったそれだけの違いですが、実はそれが大きな違いなのです。「ディジタル情報」は「離散量」で表されているので、情報の内容を数値データ化することができます。そのデータ量も有限です。しかし、「アナログ情報」は「連続量」で表されているため、数値データも無限となってしまい、そのままでは数値データ化が難しいのです。そのデータ量は無限とも言えます。

図3:アナログとディジタルの違い

 それに対し、「ディジタル情報」は“0(ゼロ)”の次は“1(いち)”のような離散量で表現されますから、それをメディアに記録することはとても簡単に行えます。特に現在の「ディジタル情報」で使われているのは、ほとんどが二値数(“0”と“1”の二つの値だけで構成されたデータを「二値数」、または「バイナリデータ」、「ディジタルデータ」と呼ぶ。)なので、“0(ゼロ)”または“1(いち)”だけを時系列にディジタルメディアに記録していけばよいのです。

 「ディジタル化」とは「アナログ情報」を「二値数」(または「バイナリデータ」、「ディジタルデータ」と呼ぶ。)に変換することを言います。情報はメディアに入れないと利用できないので、変換された「二値数(ディジタルデータ)」を「ディジタルメディア」に入れることまでを含めて「ディジタル化」と呼ぶことがあります。

 毎日新聞のホームページに音というアナログ情報をディジタル化するプロセスが解説されており、とても要領よくまとめられた内容だったので以下に紹介します。連続量であるアナログ信号を時間で区切り(ここで情報はかなりカットされます)、それを数値に表し(量子化)、さらに二進数に変換(符号化)することによりディジタル化が完了します。ここで、大切なのはディジタル化の標本化(サンプリング)プロセスにおいて、アナログ情報はカットされるということです。情報がカットされれば、当然クオリティ(品質)も劣化します。きれいな絵をFAXで送った時に、送られた絵の線がギザギザになっていたりして品質が劣化していたことはありませんか 昔のディジタルカメラで撮影した写真を家のプリンターで印刷したら、画像の品質が劣化してがっかりしたことはありませんか? このようにディジタル化では本質的に情報は劣化するものなのです。えっ、ちょっと待って!?家の4Kテレビは昔のアナログテレビとはくらべものにならないほど綺麗だぞ、ディジタル化すれば綺麗に品質は上がるんじゃないの?と思う方も多いと思います。

図4:ディジタル化のプロセス
毎日新聞ホームページより
(https://mainichi.jp/articles/20160216/mul/00m/300/00700sc)

 ディジタル化した結果、アナログ情報の時より品質が良くなるのは、ディジタル化という方式のせいではなく、「ITに関連する技術の性能向上のスピードが指数関数的に速い」という「IT」が持つ一つの大きな特徴(性質)のせいなののです。ディジタル化の標本化(サンプリング)プロセスにおいて、品質を維持するのに充分な細かさでサンプリングをすれば、ディジタル化をしても従来のアナログ情報の時より品質が劣化したとは思えないようになります。しかしサンプリングを細かくするためには、それを可能にするコンピューターの処理性能や画像センサー、出力装置の高精細化、情報量が増えるためそれを入れることができる高性能で大容量のディジタルメディアなどが必要になります。これらはどれも簡単なことではありません。これらのいろいろなIT技術の劇的進歩があって初めて高品質なディジタル情報が可能になったのです。
 IT技術がまだアナログ品質を凌駕できない程度であった1990年ごろ、カメラも銀塩方式というアナログ方式が主流でした。その頃ディジタルカメラが登場しましたが、写真の品質が銀塩方式に遠く及ばず、すぐに定着するようにはなりませんでした。しかし、その後IT技術がどんどん日進月歩で進歩していき、ディジタルカメラの品質はどんどん上がり、価格はどんどん下がっていきました。そしてついにはディジタルカメラが市場の主流を握り、アナログカメラではトップ集団にいたコダック社も2012年には倒産してしまいました。このように、製品のディジタル化が進んだ結果、伝統的なアナログ製品が市場から追い出されてしまう現象は「ディジタル・ディスラプション」と呼んでいます。IT技術を応用した製品は、しばしばこの「ディジタル・ディスラプション」を起しています。

 さて、ディジタル化について、本質的なところはご理解いただけたと思うので、ここからは「ディジタル化」のメリットについて、具体的にご説明していきたいと思います。ここに挙げるメリットは、ここまでご説明した「ディジタル情報」の特徴(アナログ情報との違い)によってもたらされるものです。

① 「ディジタル情報」は「情報」が失われにくい:

 「アナログ情報」はそれを伝送したり(テレビ放送する)、再生したり(レコードを再生する)、記録したり(音楽カセットテープに録音したり、ダビングしたりする)する度に、すこしずつ「情報」が失われたり、雑音が入ったりして、元の「情報」は劣化(失われる)していきます。テレビを見ていると、画像が乱れたり、雨のようなノイズが入ることがありました。また、何度も繰り返し再生したレコードは、そのうち耳障りな雑音の方が大きくなり、音楽に集中できなくなることもありました。しかし、「ディジタル情報」では、伝達するデータが「二値数」に表現(数値化)された離散化情報であるため、信号は“0”か“1”のどちらかかを伝えるだけであり、ノイズにも強くなります。このため「情報」が失われにくく、同じCDを何度も繰り返し再生しても、雑音なく聞けるのです。


② 「ディジタル情報」はいろいろな種類の「情報」を一元的に扱える:

 「ディジタル情報」は、文字や画像、音や映像(動画)などのいろいろな種類の「情報」を表すことができます。しかも、それはすべて同じ「二値数」で表現されているため、それを処理するのに同じ仕掛けを使うことができます。スマートフォンでいろいろな「情報」を1台で楽しむことができるのはこのためなのです。また、このように「情報」を一元的に扱えるため、マルチメディアであるとか、ウェブのハイパーテキストといった、いろいろな「情報」を混在して使うような用途も生まれました。
 「アナログ情報」の場合は、それぞれの「情報」の種類ごとに、異なるフォーマットで表現されるため、「情報」の種類の違いに応じ、別々にそれを処理する仕掛けを用意する必要があります。アナログレコードにはレコードプレーヤーを、地上波アナログ放送にはアナログデレビをそれぞれ準備する必要があります。ソニーのウォークマンは1980年代に大流行し、音楽を外に持ち出せるようにしたことにより、若者のライフスタイルを変えました。しかし、これも「アナログ情報」であったため、「音楽」という情報しか持ち出せませんでした。また、今にして思えば少し大きな「音楽カセットテープ」を、いくつか持ち歩かなければならなかったのです。


③ 「ディジタル情報」はいろいろな「ディジタルメディア」を使える:

 「ディジタル情報」を入れたり、保存したり、運んだり(伝送)するための、エレクトロニクス技術をベースに利用したメディアを「ディジタルメディア」と呼びます。HDD(hard disc drive)、SSD(solid state disk)、USBメモリ、 CD、DVD、インターネットなどがそれです。「ディジタル情報」はこのいろいろな「ディジタルメディア」の間を、ほぼ自由に行ったりきたりできます。「情報」と「メディア」の独立性がとても高いのです。パーソナル・コンピューターのHDDにある「ディジタル情報」(画像データ)をUSBメモリにコピーしたり、CDに記録された「ディジタル情報」(音楽データ)をSSDに保存したり、どんな種類の「情報」でも、いろいろな「ディジタルメディア」に簡単に移すことができます。アナログレコードの音楽を、音楽カセットテープへダビング(複製)しようと思ったら、レコードプレーヤーとカセットデッキ(例えばウォークマン)の両方を用意し、音声信号のケーブルをつないで録音するか、実際にスピーカーで音を鳴らし、それをマイクロフォンで録音する必要がありました。ましてや、テレビの動画画像を音楽カセットテープに録画しようとしてもできない相談であった。「アナログ情報」では「情報」の種類と「メディア」の種類は密接に関係しているのです。


④ 「ディジタルメディア」は持ち運びが楽であり、遠くへ速く運ぶことができる:

 エレクトロニクス技術をベースに利用した「ディジタルメディア」は、情報記録容量の高密度化や情報伝達速度の高速化を行うことができます。このことで、持ち運びが楽(小型軽量化)になり、遠くへ速く運ぶことが可能となります。紙は現在でもとても優れたメディアですが、記憶容量という面では「ディジタルメディア」にかないません。ちなみに新聞の朝刊一部(約30ページ)の文字の「ディジタル情報量」は500~600キロバイト(1バイトは8ビット)ですが、一つの小さなUSBメモリに1万部以上の新聞の「情報」を入れることができます。
 また、インターネットという「ディジタルメディア」を使えば、この程度の容量の「情報」であれば、数秒もあれば全国どこでも送ることができます。「紙」の新聞の場合、同じ家に居た時ぐらいしか、数秒で渡すことはできません。このように、「ディジタルメディア」は従来のメディアより圧倒的に速く、遠くへ「情報」を伝達することを可能としました。


⑤ 「ディジタルメディア」をコピー(複製)するのが簡単:

 光学式のコピー機ができて「紙」のメディアの情報をコピーする作業はとても楽に、またきれい(雑音が入ること少なく)にコピーすることができるようになりました。それでも、100部もコピーするとなればそれなりに時間がかかりますし、製本されたものをコピーしようと思えば、一ページずつページをめくってコピーするなどしなければならず、それなりに大変です。ところが、一度「ディジタルメディア」に「ディジタル情報」で記録された情報は、コピーするのはそれ以上に簡単です。また、コピーにかかるコストが非常に安くなります。「ディジタルメディア」の種類にもよりますが、そのメディア代はコピーによって生まれる「情報」の価値よりかなり安く、コピーの作業はほとんど人手を介さずに自動的に行えます。しかし、このことと、①で説明した「情報」が失われにくいことが、「ディジタルメディア」の「不正コピー」が無くならない大きな原因となっています。それを防ぐためのコピーガードや法的なルールで「不正コピー」の対策が行われています。



【ここで、ひといき】人類と「アナログ情報」の長い付き合い:
 ふだん、私たちが音や光など自然界から得る情報の多くは「アナログ情報」であり、人類は700万年にもおよぶほとんどの時間を「アナログ情報」を中心として得ることにより、生活し進化してきました。それに対し、人類が「ディジタル情報」に接し始めたのは、大きく見積もっても文字を発明した1万年ほど前からと考えられます。
 このように人類は「ディジタル情報」に接してきた時間よりも、「アナログ情報」に接してきた時間の方がはるかに長いのです。それだけ私たちの頭脳には「アナログ情報」がたくさん入り込み、記憶されていると思われます。現在、私たちの周りには、「ディジタル情報」があふれています。しかし、ときどき自然の風景を眺めたり(図5)、鳥のさえずりを聞きたくなったり、また古いアナログレコードを聴きたくなったりするのは、それだけ「アナログ情報」が私たちのDNAに深く刻まれているからかもしれません。すぐにディジタル化せず、「アナログ情報」のまま残しておくべき情報もたくさんあるのです。人と人のつながりも、「アナログ情報」のまま残しておくべき情報だと思います。


図5:アナログ情報の例(自然の風景)
山梨県 ホームページより
(https://www.pref.yamanashi.jp/miryoku/fujisan/index.html)



2020年05月08日